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高知地方裁判所 昭和62年(ワ)656号 判決

原告(昭和六三年(ワ)第一三〇号事件被告)

野村文政

(平成元年(ワ)第四三三号事件被告)

野村敬子

被告(昭和六三年(ワ)第一三〇号事件及び平成元年(ワ)第四三三号事件原告)

谷内昌子

主文

一  本訴被告は、本訴原告らに対し、昭和六一年一一月七日午前一一時頃高知県土佐市高岡町甲一八六七番地先路上で発生した本訴原告野村文政運転の普通乗用車(高五六て四九〇四)と本訴被告運転の自転車との接触事故を原因とする損害賠償債務の存在しないことを確認する。

二  昭和六三年(ワ)第一三〇号事件及び平成元年(ワ)第四三三号事件原告の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、本訴、昭和六三年(ワ)第一三〇号事件及び平成元年(ワ)第四三三号事件を通じ、本訴被告(昭和六三年(ワ)第一三〇号事件及び平成元年(ワ)第四三三号事件原告)の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 本訴被告(以下「被告」という。)は本訴原告(以下「原告」という。)らに対し、昭和六一年一一月七日午前一一時頃、高知県土佐市高岡町甲一八六七番地先路上で発生した本訴原告野村文政(以下「原告文政」という。)運転の普通乗用車(高五六て四九〇四、以下「原告車」という。)と被告運転の自転車との接触事故を原因とする損害賠償債務の存在しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(反訴)昭和六三年(ワ)第一三〇号事件

一  請求の趣旨

1 原告文政は、被告に対し、二二八万八四〇〇円及び内二〇八万八四〇〇円に対する昭和六三年三月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告文政の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

(反訴)平成元年(ワ)第四三三号事件

一  請求の趣旨

1 本訴原告野村敬子(以下「原告敬子」という。)は、被告に対し、二二八万八四〇〇円及び内二〇八万八四〇〇円に対する平成元年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告敬子の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 被告は、昭和六一年一一月七日午前一一時頃高知県土佐市高岡町甲一八六七番地先路上において、原告文政運転の普通乗用自動車(高五六て四九〇四)が被告運転の自転車に接触した(以下この事件を「本件事故」という。)とし、そのため被告は右肩関節脱臼、右上腕骨大結節剥離骨折の傷害を受け、土佐市民病院及び川田整形外科に入院し、昭和六二年七月三一日症状固定により後遺障害一四級の認定を受けた。

2 しかし、本件事故は、原告文政が前記場所において原告車を駐車場に入れるために停車しているところへ、原告車の右側を自転車で走行してきた被告が原告車の右側に倒れかかりその反動で右側に転倒したもので、被告の自招自損行為であるから、原告文政(原告車の運転者)及び原告敬子(原告車の保有者)には全く責任がない。

3 よつて、原告らは、被告に対し、いずれも本件事故による損害賠償債務のないことを確認する旨の裁判を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実のうち、原告文政運転の原告車が原告ら主張の日に被告に接触し、そのため被告が転倒し、受傷したこと、被告が土佐市民病院に入院したこと、後遺障害一四級の認定を受けたことは認め、その余の主張は争う。

2 同2のうち、原告文政が原告車の運転者、原告敬子が原告車の保有者であることは認め、その余は否認又は争う。

3 同3の主張は争う。

(反訴)昭和六三年(ワ)第一三〇号事件及び平成元年(ワ)第四三三号事件

一  請求原因

1 交通事故の発生

被告は、本件事故により負傷した。

(一) 事故発生年月日 昭和六一年一一月七日午前一一時頃

(二) 事故発生場所 土佐市高岡町甲一八六七番地先路上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(原告車)

(四) 原告車の運転者 原告文政

(五) 原告車の保有者 原告敬子

(六) 事故の態様 被告が自転車を運転し南進中、同方向に駐車していた原告文政運転の原告車が突然被告の前方に出ながら発進したため、原告車が被告の自転車に接触し、そのため被告が転倒し、右肩関節脱臼、右上腕骨大結節剥離骨折の傷害を受けたもの

2 原告らの責任原因

原告文政は、原告車の運転者であるから、民法七〇九条により、原告敬子は、原告車の保有者であるから、自動車損害賠償保障法三条本文により、被告が本件事故により受けた損害を賠償する義務がある。

3 被告の損害

(一) 治療費 九万六四〇〇円

被告は、前記傷害治療のため

(1) 昭和六一年一一月七日から同年一一月九日まで土佐市民病院に入院

(2) 同年一一月一三日から同六二年三月三一日まで土佐市高岡町の川田整形外科に入院

(3) 同六二年四月一日から同年七月三一日まで同病院に通院治療

その結果、被告は、自己負担治療費として、土佐市民病院に六七〇〇円、川田整形外科に八万六四〇〇円を支払つたので、その合計九万六四〇〇円を治療費として請求する。

(二) 入院雑費 一四万二〇〇〇円

前記(1)・(2)の入院期間一四二日間につき入院諸経費として一日一〇〇〇円の割合の一四万二〇〇〇円を要した。

(三) 休業による逸失利益 七二万円

被告は、ハウス園芸農業に日雇いとして働いており、月額平均八万円の賃金を得ていたが、前記のとおり九か月間稼働できなかつたので、その得べかりし利益の喪失額は七二万円となる。

(四) 慰謝料 一八〇万円

被告は、本件受傷の治療のため入院一四二日、通院四か月を要し、かつ後遺障害一四級の後遺症を被つた。このことにより受けた被告の精神的苦痛、打撃を金銭で償うとすれば一八〇万円をもつて相当とする。

(五) 弁護士費用 二〇万円

被告は本訴・反訴につき、被告訴訟代理人に訴訟委任したので、その弁護士費用として二〇万円を本件損害として請求する。

(六) 弁済関係 六七万円

被告は、後遺障害保障金として六七万円を支給されたので、本件損害に充当する。

4 まとめ

よつて、被告は原告らに対し、前項の(一)ないし(五)の合計二九五万八四〇〇円から(六)の金額を差し引いた二二八万八四〇〇円及びうち弁護士費用二〇万円を控除した二〇八万八四〇〇円に対する反訴状送達の日の翌日(原告文政に対しては昭和六三年三月三日、原告敬子に対しては平成元年一一月八日)から右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実のうち、被告が、その主張の日時・場所において転倒したことは認め、原告車と接触したことは否認し、その余の事実は不知。

2 同2のうち、保有者責任の根拠は認めるが、その余は否認又は争う。

3 同3の事実は不知。

4 同4の主張は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  交通事故の発生

1  被告がその主張する日時・場所において転倒したことは、当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第一(原本の存在についても)、第五、第一一号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる甲第三号証、証人小橋一友(以下の認定に反する部分は除く。)及び同川田尚二の各証言、原告文政及び被告(以下の認定に反する部分は除く。)の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、同認定に反する証人小橋一友の証言及び被告本人尋問の結果は原告文政本人尋問の結果に照らし措信しない。

(一)  本件事故現場は、土佐市民病院と同病院の駐車場とに挟まれた南北に走る平坦でアスフアルト舗装された道路で、南北の見通しは良いこと

(二)  原告文政は、土佐市民病院の駐車場に駐車するために、原告車を北から南に向けてゆつくりと運転し、同駐車場入口まで来たところ、満車であつたので駐車場が空くのを待つために北に向けてバツクし停車しようとしたこと

(三)  原告文政は、原告車を約四・九メートルバツクしたとき、北から自転車に乗り左右に揺れるようにしてのろのろと進んでくる被告(被告は明治四四年四月一日生)を約一八・八メートル後方に発見したが、更に原告車を約一三メートルバツクして停車したこと

(四)  原告文政は、停車してから約一〇秒ほどして、何かが原告車にもたれかかるような感じを受けるや、原告車の右前方に被告が自転車にまたがり右肩から倒れるのを見たこと

(五)  実況見分の際には、原告車に凹損はなく、被告の自転車のハンドルカバーで付いた擦過痕、同自転車の前に付いている篭で付いた擦過痕三本、同自転車の鍵により付いた原告車のタイヤ部分に付いた擦過痕(ただし真横に付いている。)が認められたこと

(六)  原告文政は、親切心から被告を同人の行きつけである川田整形外科に連れて行き、同外科で診察を受けたところ、被告の両肩の脱臼、上腕大結節剥離骨折との診断を受け、麻酔科のない川田整形外科では治療しにくかつたことから、麻酔科のある土佐市民病院に被告を連れて行つたこと

3  右事実によれば、本件事故は、被告の自傷行為によつて発生したものといわざるをえない。

被告はその本人尋問において、原告車は当初停車していたが、被告が原告車を追い越す際、急に発進して被告の乗つている自転車の左ハンドルに当たつたと供述する。しかし、そうであるならば、被告としてその状況を覚えていて当然と思われるにもかかわらず、証人小橋一友の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は捜査段階で警察官に対し原告車に気付いていない、現場のことははつきり覚えていないと供述していたことが認められ、被告の本人尋問における前記供述は信用できない。また、前記甲第五号証によれば、被告の乗つていた自転車の損害は左ハンドルカバー及び鍵の擦過にすぎないことが認められ、原告車が急発進したというには余りにも損傷が軽微である。さらに、既に認定したように、原告車のタイヤ部分に付いた擦過痕は真横であり、カーブをえがいていないのであるから、被告が原告車に接触した際、原告車は停止していたと考えるのが合理的である。

そのほか、前記甲第五号証及び弁論の全趣旨を総合すると、原告車の構造上の欠陥又は機能上の障害がなかつたことが認められ、原告らには本件事故に関し損害賠償責任はないといわざるをえない。

二  結論

よつて、原告らの請求は理由があるから認容し、被告の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 横出光雄)

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